◇
「どちら様ですか? 主様は本日予定がありますので、どうぞお引き取りを」
曼珠沙華の家紋が掲げられた関所っぽい門の中に入ると、居たのは一人の女性。巫女装束に狐面をしており、どこか異様な雰囲気がある。
〝主様〟って、つまり九条家のご当主のことだろうか? いきなり門前払いとは、一筋縄ではいかないと覚悟していたが、初っ端から出鼻を挫かれてしまった。
「いえ。ご当主様ではなく、ご嫡男様のお見舞いに参りました。申し遅れましたが、僕たちは日ノ本高校の教師と生徒です」
そこですかさず木綿先生が狐面の女性に名刺を渡す。木綿先生! 普段はボケボケだが、こういうところはさすが大人っ! 頑張れーっ!!
「……確認します」
そうして少しの会話の後、狐面の女性は名刺を握りしめてどこかへと行ってしまった。おおっ!?
「先生すごい! もしかして中に入れてくれるかも!?」
「うーん、どうでしょうね? 確認というのも、一体なんの確認なのやら……」
「お待たせしました」
「!!」
ヒソヒソと話していると、すぐに狐面の女性が戻って来たので、私は慌てて姿勢を正す。
「主様が中へ案内せよと仰せです。まみえる際は失礼などありませぬよう」
「え……」
――ええぇっ!!?
抑揚のない声で淡々と言われたが、〝主様とまみえる〟それってつまり、九条家のご当主と会うってことじゃ……っ!?
なんで急に? ていうかじゃあさっき、〝本日は予定がある〟とか言っていたのは、嘘だったんかい!?
想定はしていたものの、さながら序盤でラスボスにぶち当たった勇者の気分だ。
なにせ私は日ノ本帝国の一番南にある島で生まれ育った超庶民。そんな田舎者が名門貴族のご当主様に会うのである。緊張して当然と言えよう。