一反木綿(いったんもめん)姿の木綿先生に乗った私達は、あっという間に九条家前へと到着した。もちろん速さの代償は小さくはなかったが……。


「はー、はー……。死んだ、100回は死んだ」

「ぎぼぢわるい。吐きそ……」

「雪守ちゃん、吐くならそこに丁度いい布があるよ」

「僕の体に向かって吐かないでくださいぃぃっ!!」


 えずいた私を見てすぐさま人型に戻り、涙目で叫ぶ木綿先生はほっといて、私達は目の前にそびえる建物を見上げた。


「こ、ここが、九条くんの家……」


 いや、自分で言っといてなんだけど、家はまだ全く見えてない。見えているのは遥か遠くまで伸びている塀と、関所ですか? と言いたくなる立派な門だけだ。
 
 私の中の家という概念を根本からぶち壊すとは、貴族……それも三大名門貴族、半端ねぇ……。
 雲の上、雲の上とは常々思っていたけど、こんなすごい場所で育った人と私は今までフツーにしゃべっていたのか。だからなんだとは思うが、少々カルチャーショックを受けてしまった。


「おらっ、ビビってねぇで早く入るぞ!」

「あたっ!」


 バシッ! と背中を思いきり夜鳥くんに叩かれ、思わず恨めしげに睨む。
 しかし明確な九条くんとの身分の差を突きつけられて、少々気持ちがささくれていた私を慰めようとしてくれたのは分かるので、文句は我慢しといてやろうと飲み込んだ。