最近起きた〝何か〟なんて、そんなの私が九条くんが病を患っていることを知って、彼に雪女の力を使ったことくらいしか思い当たらない。
けどそれは私達二人だけの秘密で、誰にも知られていない筈だ。じゃあ他に何が?
「んんー……」
ダメだ、全く退学させる理由が思いつかない。
「……なぁ」
「え?」
私が頭を捻っていると、さっきまでずっと黙っていた夜鳥くんが声を上げた。
その表情は少し困惑気味である。
「思ったんだけどよ、貴族がよく言ってる九条家の〝黒い噂〟ってヤツ。あれ多分、さっき木綿が言った九条家当主が皇帝陛下の命を狙ってるって話だわ」
「えっ!?」
多分!? 多分ってことは……!?
「ちょっと夜鳥くんっ!! まさか噂の詳細も知らないで、前に私に九条家には黒い噂があるって、警告してきたの!?」
「なんだよ悪りぃかよ!? 実際社交界ではそんな話してたんだし、嘘は言ってねぇだろ!」
「嘘じゃなくても、真偽不明な話で人を不安にさせるなーっ!!」
怒りのあまり夜鳥くんを怒鳴りつければ、木綿先生がどうどうと宥めながら、新たなソーダを差し出してくる。
私はソーダごときで機嫌を直す安い女じゃ……、うん。冷え冷えで美味しい。
「まぁまぁ、又聞きの話を無闇にするのはよくないですが、夜鳥くんも雪守さんが心配だったんですよ。それにすみません、僕の方も推測の域を出ない話しか教えてあげられなくて」
しょぼんと眉を下げる木綿先生に、私は首を横に振る。
「いえ、それでも助かります。私は本当に何も知らなかったから……」
話のスケールには少々驚いたが、お陰でようやく何も知らなかったところから一歩踏み出せた。
ならば次にすべきことは……。