まさかの〝皇帝陛下〟というパワーワードに、私は持っていたソーダを思いっきり握りしめてしまった。ベコッと鈍い音と共に、手を濡らしてしまう。
「おわっ、雪守!?」
「ご、ごめっ……!」
慌ててハンカチで手を拭きながらも考える。
正直三大名門貴族すら雲の上って感じなのに、皇帝陛下とか未知過ぎて、想像すらつかない。でもそんな物騒な話が発端って、陛下と妖狐のご当主は一体どういう関係なのだろう?
「元々陛下とご当主は、我が校に通う御学友だったそうです」
「えっ!? 同級生!?」
「はい。ですが当時ご当主が、陛下の命を脅かすような事件を起こしたとか。日ノ本高校は元々皇族の為に設立された学舎。以降九条家に対する上層部の目は厳しくなり、九条くんの入学許可にも難儀した訳です」
「…………」
なるほど、確かに過去にそんなことがあれば、学園側は九条家を警戒するだろう。
そして九条家側が九条くんの日ノ本高校への入学を反対したというのも、何故か理解出来た。抱えていたモヤモヤがひとつ解けて、少しスッキリした気持ちになる。
しかしそれに雨美くんが待ったをかける。
「けどさ、もし本当に陛下の命を脅かすような事件があったのなら、今九条家が貴族を名乗れているのは不自然じゃない?」
「あ……」
「ええ、その通りです。普通なら家は取り潰しでしょうし、ご当主が今も当主を名乗れている筈がないです。しかし九条家は現在も爵位を保持したまま」
「じゃあ実際には妖狐のご当主は、陛下に何もしていない?」
「詳細は上層部も固く口を閉ざしていますし、結局のところ、真相は当事者にしか分からないでしょうね」
「うーん……」
つまり真相は闇の中。けれど、火のないところに煙は立たない。さもありなんということだろう。
「じゃあ話を戻して九条様のことだけど、学園と九条家はそういう因縁がありながらも、1年半平穏無事に過ぎていた。なのに今更九条家が九条様を退学させようとするのは、ここ最近の間に〝何か〟あったと考えた方が自然なのかな?」
「何か……?」
雨美くんの言葉に私は思案する。