あれから、簀巻(すま)きで廊下に放置された木綿先生の存在をようやく思い出した私達は、「酷い、酷い!」と泣き喚く先生を宥めるついでにソーダを奢ってもらい、いよいよ生徒会室で全員が向き合う形で座ったのだった。


「では本題に入りましょうか。まず最初に、九条くんが欠席した理由が体調不良というのは嘘です。……いや、嘘だと推測出来ると言った方がいいでしょうか」

「……?」
 

 どこか含みのある木綿先生の言葉に、私は続きを促す。すると木綿先生は自分の前にあるソーダをグイッとあおってから、話を続けた。


「今朝、九条家から学校に連絡がありました。九条くんは体調不良により通学が困難な為、退学させるとのことでした」

「た、退学!!?」


 ビックリして思わず私は叫んだ。まさかいきなりそんな言葉が飛び出すとは思わず、心臓がバクバクと嫌な音を立てる。


「落ち着けよ、雪守。退学させる(・・・)ってことは、多分九条様は退学に同意してる訳じゃねぇんじゃねぇか?」

「ええ。僕もそう考えてます。だから体調不良を退学の方便にしているのだと」

「うーん。でも九条家が本気で言ってるんだとしたら、九条様を退学させる理由はなんなの? もう入学して1年半が経ってるのに、今更過ぎない?」


 雨美くんが不思議そうに首を傾げると、木綿先生もそれに同意するように頷き返した。


「はい、僕もそこが分からないんですよねぇ。ここ数ヶ月の九条くんは、授業や行事にも積極的に参加しています。そのお陰で彼の入学に反対していた学園の上層部も態度を緩和させていて、僕も胸を撫で下ろしていたんですが……」

「九条様の入学に上層部が反対?」

「なんだそりゃ?」

「あ、二人もこの話は知らないんだ。木綿先生、今日こそは話してくれるんですよね?」


 目を丸くする雨美くんと夜鳥くんを見た後、私は前のめりになって木綿先生を見つめる。すると私の真剣な眼差しに先生は苦笑して、頷いた。


「はい、その為に雪守さんを呼び出しましたし。実は僕も当事者ではないので、確定したことは言えませんが、〝九条家の現ご当主が皇帝陛下の命を狙っている〟そんな話が事の発端のようです」

「ええっ!?」