「今のって妖力だよね? もしかして雪守さんって……妖怪?」
九条くんが強大な火の妖力を全身に迸らせ、恐しく平坦な声で問いかけてくる。
「あ……」
それを見ながら私は、「わっ! 九条くんて、まつ毛長いなぁ」とか、「ちゃんと私の名前、覚えてたんだなぁ」とか、明らかに今の状態にそぐわない感想がぐるぐると頭を駆け巡った。
「さぁ、呆けてないでちゃんと質問に答えて。早く答えないと、……力づくで言わすよ?」
「…………っ!」
しかし目の前の相手は現実逃避する暇も与えてくれないらしい。
がっちりと掴まれた両手首が、ギリギリと締まって痛い。どうやらなかなか質問に答えない私に苛ついているようだ。
ちょっと待ってよ! 助けようとしたのに、この仕打ちは酷くない!?
生憎こちとら天敵妖狐のビシバシくる火の妖力に当てられて、内心ガクブルなんだよ! 口の呂律だって上手く回ってないんじゃ!!
……という思いを込めて、渾身の睨みを九条くんにお見舞いするが、もちろん効果は無い。
まぁ確かに? 目が覚めたら親しくもない女が側にいて、九条くんが苛つく気持ちも分からなくはない。けどさ? 私だっていきなりのこの仕打ち。同じくらい苛ついているんだよ!
こんなに元気なら心配して損した! 半妖であることまでバレかけてるし、ほんと大損だ!!
「雪守さん?」
「っ」
早くしろという目。なんなのその上から目線! 貴族だからって庶民に何してもいいっての!?
もうっ、あったまきた!! こうなったら私の怒り、思い知れっっ!!!
――――ゴスッ!!
その瞬間、保健室に鈍い嫌な音が響いた。