その異変に気がついたのは、すっかり日課となった朝の保健室に来た時だった。
「あれ? 九条くん、まだ来てないのかな?」
いつもなら私より先に来てベッドで寝ている九条くんが、今日はまだ来ていなかったのだ。
私と九条くんは同じ寮に住んではいるが、朝一緒に登校することは無い。それぞれ寮を出る時間帯が違うし、毎朝一緒に保健室へ入って行くところを誰かに見られでもして、あらぬ噂を立てられない為でもある。
そんな訳で、待ち合わせ時間は特に決めていなかったが、朝一番に保健室に向かうことはお互いに暗黙の了解だった筈なのだが……。
「まさか珍しく寝坊したとか?」
真っ先に浮かんだ想像を、いやいやとすぐに打ち消す。だってあのいつも涼しい顔をしている九条くんが寝坊とか、似合わないしあり得ないにも程がある。
きっと今日はたまたま遅いだけ。待っていればすぐに現れるだろう。そう結論づけて、出来た時間を潰すため、私は参考書を開く。
「早く来ないかなぁ……」
しかし結局始業のチャイムが鳴っても、九条くんが保健室に現れることはなかったのである。
「……ひょっとして保健室に寄らずに、教室に居るのかな」
始業のチャイムを廊下で聞きながら、私は保健室を出て、とぼとぼと一人教室へと向かう。
もしかしたら今日は私の妖力が必要ないくらい、元気だったのかも知れない。
だったら「心配するから先に言ってよ!」って、少し怒ろう。でも、ちゃんと元気な顔を見れたら許してあげようかな、なんて考える。
だから――。