「そうだね」
すると九条くんも穏やかに笑って同意してくれるから、今ならちょっとだけわがままを言っても許してくれるかな? なんて、思い切って告げてみた。
「手」
「うん?」
「手を私がいつもするみたいに、おでこに当ててよ」
「別にいいけど、俺は君みたいに癒すことは出来ないし。むしろ俺の高い体温は、まふゆには不快なんじゃ……」
「いいから」
困ったように言いながらも、私のわがままを聞いて九条くんはおでこに手を当ててくれる。
「――――」
私には熱過ぎるくらいの九条くんの体温が、おでこから体全体へと伝わって、ポカポカと広がっていく感覚がする。それにふっと張り詰めていたものが緩み、心が落ち着いていくのを感じた。
「……不快じゃないよ」
「え?」
緩く首を横に振って、私は九条くんを見た。
「私……九条くんの高い体温、嫌いじゃないから」
「雪女なのに?」
「そう、雪女なのに」
私の返しに九条くんがクスッと笑った。それに私も笑う。
自分でも不思議だけど、最初は熱くて怖くて堪らなかった九条くんの高い体温と妖力が、今では側にないと逆に落ち着かなくなってしまった。
〝離れたくない。もっとこうしていたい〟
そんな風に思ってしまう。
「……ああ、そういえば」
私のおでこを撫でていた九条くんが、不意に思い出したように口を開いた。
「賭け事の件は今朝の全校集会が効いたのか、ぱったり話を聞かなくなったよ。これで君が無茶な真似をする必要は無くなったね」
「え」
そうなんだ。学校長があれだけ長時間熱弁をしていたので、その熱意がみんなに伝わってなによりである。
「それはよかったけど、でも別に賭けはあくまでもキッカケであって、私が九条くんに勝ちたいのは変わらないし」
「じゃあまたこんな無茶をする?」
「…………うう」
そう言われてしまうと、ぐうの音も出ない。唇を尖らせて唸れば、おでこに当てられていた九条くんの手のひらが私の頭に移動して、ポンポンと撫でられる。
私だって、迷惑をかけたり心配されるのは本意ではないけれど……。
「勝負ならいつだって受けて立つから、だからもう無茶はしないで」
「だったらそれ、ちゃんと約束してよ」
「約束?」
キョトンとする九条くんの前に小指を差し出せば、九条くんが苦笑した。
「ほら早く。約束!」
「……分かったよ」
急かすと観念したのか、九条くんが私の小指に小指を絡めてくる。
「約束する」
ゆびきりをして、そこでようやく私は納得出来た。
「うんっ! 絶対約束だからね!!」
◇
でもそう約束した次の日、九条くんはいなくなってしまったのだ。寮からも。学校からも。
そして、私の前からも――。
