「いらっしゃい、入って」

「お、お邪魔します」


 ノックをすればすぐに扉が開いて、いつもの制服姿ではないラフな格好の九条くんが顔を出した。
 そのまま促され、思えば男の子の部屋になんて入るの初めてだとドギマギしながら中に入る。

 部屋は当たり前だが、私の部屋と間取りが同じ。
 しかしその中でひときわ目を引くものがあった。それは――。


「すごい……! 部屋中、本だらけ」
 

 そう。本、本、本。壁という壁に本棚が設置され、それでも入りきらないのか、床にも何冊も積まれている。かろうじてベッドと机はあるが、それ以外は本しかない。


「これ全部読んだの!?」

「そうだね。何せベッドで過ごす時間が昔から人より多かったから、暇つぶしといえば専ら読書だったんだ」


 (おど)けたように九条くんは笑うが、ベッドで過ごさざるを得ない理由を知る者としては笑えない。
 でもそっか。授業にほとんど出ていなかった九条くんがずっと1位だった理由が、なんとなく分かった。
 何しろ棚に並ぶ本は、題名だけでも私にはちんぷんかんぷんなものばかりなのだ。悔しいが、理解出来ない内は九条くんに勝つことは難しいのかも知れない。


「あっ!」


 しかし一冊だけ、見覚えのある背表紙を本棚から見つけ、思わず手に取る。


「これ私も持ってる! 生徒会長が主役の学園小説!」


 確か主役の生徒会長が荒んだ学園を次々と改革していく痛快なストーリーが受けて、7年ほど前に子供たちの間で爆発的なブームになったのだったか。
 この本も角が擦り減っており、何度も読み返しているのが見てとれた。


「なんか意外かも。九条くんって、こういう系は読まないイメージだったし」

「そうかな? あ、そういえばこの本の主人公が、まふゆによく似てるなって思ってたんだ」

「え!?」


 九条くんにとって私って、そんなヒーローみたいなイメージ??
 突然の言葉に目をパチクリさせれば、それを見た九条くんが笑う。


「さぁ、立ち話はここまでにしよう。狭くて悪いけど、とりあえず座って」

「う、うん……」