朱音ちゃん共々申し訳ないことをしてしまった。でも別に、私のことなんて放って帰ればよかったのに。そう口から出掛かったが、すんでで飲み込んだ。
……だってきっと逆の立場なら、私だって九条くんを待っていたと思うから。
「ごめん。待っててくれて、ありがとう」
「いいよ。それよりここももう閉めるみたいだし、早く帰ろう」
「うん」
促され、机を片づけて図書室を出る。
そうして並んで歩けば、なんとなく気まずさを感じた。
なにせ九条くんに啖呵を切ったあの日以来、私は九条くんとまともに話さず、勉強の鬼と化していたのだ。
つい最近まで九条くんと会えなくて寂しいと思っていたのに。いざ近くにいてくれるとなるとこの調子とは、我ながらゲンキンなヤツ過ぎる。
これでは九条くんに呆れられて当然じゃないか。
「…………」
なりゆきとはいえケンカを売るような真似をしたことを後悔し、そっと隣を伺う。――と、
「何に唸ってたの?」
「へぇっ!!?」
いきなり予想だにしないことを聞かれ、肩がビクついた。
「参考書広げて、んーんー言ってたでしょ? もしかして何か悩んでるのかと思って」
「あ、ああうん。ちょっと解んない問題があって……」
素直に答えてハッとする。
これから勝負しようという相手に、何故自ら弱点を晒すような真似をしたのかと。
まずいっ! 今のは忘れるように言わないと……!
しかし急いで口を開こうとする私より先に、九条くんが話し出した。
「だったら俺が教えるから、夕飯食べたら俺の部屋に来なよ」
「え……」
「じゃあ後でね」
「え!?」
そのままスタスタと二階に上がっていく九条くんを呆然と見送って、ハッと気づく。
「あれっ!?」
「あら、まふゆちゃんおかえり。今日も神琴くんと一緒だったんだね」
「!!?」
キョロキョロと辺りを見回せば、いつの間にか寮の玄関に立っていて、寮母さんに声を掛けられる。
なんてこと!? 話に夢中で、いつの間にか寮に帰って来たのに気がつかなかった!!
ていうかあの話の流れじゃ私、九条くんの部屋に行くの決定じゃん!! いや、嫌じゃなくてむしろ気になるけど!! でも今は敵だし!!
「~~~~っ!」
それからひたすら堂々巡りをした後、とりあえず部屋着に着替えて寮母さんの夕飯を食べに行く。
そして気がついたら、勉強道具を持って九条くんの部屋をノックしていた。
「…………」
いや、だって、うん。
好奇心に負けた。