◇
「勝つ、勝つ、勝つ、勝つ……」
「あの、まふゆちゃん? まふゆちゃーん?」
「はっ!?」
顔の前で手を振られて私は我に返る。
目の前には心配そうに眉を下げた朱音ちゃんが立っていた。いかん、朱音ちゃんに声を掛けられているのに気がつかないなんて一生の不覚。
「ご、ごめん! ぼーっとしてた!」
素直に謝れば、朱音ちゃんが首を横に振った。
「ううん。それよりも勉強するのはいいことだと思うけど、さすがに根を詰めすぎだよ。こんなこと続けてたら、まふゆちゃん倒れちゃう」
そう言って朱音ちゃんは、机にうず高く積んだ参考書の壁を指差す。私の前を通る人が、みな一様に机の上を見てギョッとした顔をする。
そういえば集中し過ぎて忘れていたが、私は今図書室で勉強しているのだった。
「心配してくれてありがとう。でも、こんなことぐらいで音を上げてちゃ、九条くんに勝てないし!」
「う。確かにそれぐらいしなきゃ、あの九条さんに勝つのは難しいのかも知れないけど、でも……」
朱音ちゃんの視線がウロウロとあちこちをさ迷う。
……うん、やっぱり朱音ちゃんも私が九条くんに勝つのは難しいと思っているんだね。
「よしっ、ありがとう朱音ちゃん! 気合い入ったよ! 私頑張る!!」
「もう……、まふゆちゃんたら……」
打倒九条を胸に更に勉強に没頭し始める私。それに朱音ちゃんが溜息をつくのが耳の片隅に聞こえた。
◇
「――ふゆ」
「んー……」
なんだこの数式……どう解くんだ? ……こうか? いや、……こうか??
「まふゆ!!」
「んんっ!?」
いきなり至近距離で名前を呼ばれて驚きに飛び上がれば、目の前には呆れたようにこちらを見ている九条くんが立っていた。
「は、え……?」
なんで九条くんが?? あれぇっ!? さっきまで朱音ちゃんがいたと思ったのに!?
慌てて周囲を見渡せば、いつの間にかたくさんいた人はいなくなっており、居るのは私と九条くんだけ。しかも窓の外はどっぷりと暗くなっていた。
「え……、今何時?」
「もう夜の7時過ぎだよ。夕方にまふゆの様子を見に来てみれば、不知火さんが君の側で困っていたからね。彼女は先に帰して、俺が後を引き継いで君の勉強が終わるのを待っていたんだ」
しかし待てど暮らせど終わらない私に痺れを切らせて、声を掛けたと。
「それは……」
