すると雨美くんがおもむろにそんなことを言いながら、意味ありげにこちらを見てきて、私は首を傾げた。
こういう時の雨美くんの話はロクでもないことが多いので普段は適当に流すのだが、いかんせん今日の私はやる気に満ち満ちている。
つい、なんでも聞いてやんよ! とばかりに問い返してしまった。
これが失敗の始まりだったのだが……。
「生徒会長と副会長。〝本当に頭が良いのはどっちか〟って、学期末テストの順位で賭けが行われているんだって!」
「へぇー……、へっ!?」
か、賭けだと!? 学生の分際で言語道断だ。必ずや摘発しなければ!! ……いや、じゃなくて!
「……生徒会長と副会長って、九条くんと私?」
「もちろん」
「……私達のどっちが頭良いかって?」
「そう」
「…………」
それは私の傷に塩を塗りつける、新手の辱めだろうか? 認めるのは業腹だが、やはりそれは――。
「んなもん、賭けるまでもなく九条様じゃん」
夜鳥くんがつまらなそうに、背もたれに体重を掛けながら言い放つ。
〝んなもん、賭けるまでもなく九条様じゃん〟
それは普段なら同意して笑い飛ばしていたであろう、夜鳥くんのいつもの軽口だった。
しかしその言葉が脳に伝わった瞬間、私はイスから勢いよく立ち上がって、夜鳥くんに向かって叫んでいた。
「そんなのやってみなきゃ分かんないし、勝手に決めつけないでよ! 今回は私だって自信あるんだから!!」
「何言ってんだよ!? 万年2位女の癖に!!」
「なんだとーーっ!!」
「待った! 二人とも落ち着くんだ!」
ヒールアップする私達に、九条くんが待ったをかける。しかし私は止まらない。
またもや夜鳥くんと思考が被った絶望感と、ハッキリ事実を突きつけられる羞恥。そして比べられている相手に宥められているという屈辱に、久しぶりの絶好調で力が有り余っていた私は、勢いのまま宣言する。
「絶対、ぜぇ~ったいっ、学期末テストでは1位になってやるんだからっ!! 九条くんは首を洗って待ってなさいよーっ!!!」
指を突きつけ絶叫する私にポカンとする九条くん。ブスッとしている夜鳥くん。楽し気に笑う雨美くんに、オロオロとする木綿先生。カオスな状況に、もはや生徒会どころでなくなってしまう。
そうして程なくして、九条くん復活の記念すべき本日の生徒会は早々にお開きになったのだった……。