「熱っ!?」


 頬に焼けつくような痛みを感じ、オレは思わず顔を(しか)めた。手で触れて確かめようとすると、パラパラと見覚えのあり過ぎる火の粉が室内に舞い落ちてくる。


「…………っ!!?」


 先ほど感じた寒気とは比べ物にならない程の強烈なプレッシャーに、オレの体は勝手にガクガクと震え出す。

 あれ? そういえばさっきからずっと会話に参加していない人物がいたじゃないか、約一名。


「…………」


 ギギギと顔をぎこちなく動かして、生徒会室のお誕生日席――つまりは生徒会長席を振り向けば、にこやかに笑う九条様が見えた。
 この圧倒的な威圧感とは真逆の優しげな笑み。怖過ぎる。


「くっ、九条様も見られますか!? 今男子の中での一番人気は、下手なグラビアアイドルよりも雪守で――」

「夜鳥」


 ニコニコと笑いながらも、かざされた右手はゴウゴウと炎に包まれていて、オレは発言を誤ったと悟った。


 ◇


「みんなごめーん! 朱音(あかね)ちゃんとつい話が盛り上がってたら、すっかり遅くなっちゃっ……え!? どしたの、この惨状!?」


 いつものようにサラサラと長い紫色の髪を(なび)かせながら、雪守が生徒会室へと入って来た。しかし常とは違う生徒会室の惨状に目を丸くする。
 そりゃあそうだろう。室内は煤だらけ、オレ達は黒焦げでボロボロ。唯一九条様だけがいつも通り涼しげな表情で分厚い本を読んでいる。


「なんでもないよ、まふゆ。それよりも早く生徒会を始めよう」


 先ほどの悪鬼の如き暴れっぷりはどこへやら。雪守に優しげに微笑んで、自身の隣に座るよう九条様がイスを引く。


 ――まふゆ(・・・)


 いつの頃からか、九条様はそう雪守を呼ぶようになった。そしてそう呼ばれた雪守もまた、恥ずかしそうにはするが、それでも嬉しそうに頬を染めてはにかむのだ。
 これまで多大な男子人気にも意を介さず、全く男っ気のなかったこいつに、そんな顔をさせられる九条様を素直にスゴいと思う半面、悔しさもある。

 だいだい雪守の気持ちが完全に九条様に向いてることは、誰の目から見ても丸わかりなのだから、写真集くらい容認してくれたっていいじゃねぇか。そう思うが、可愛い雪守をこれ以上他の男の目に晒したくないということなのだろうか。
 文化祭での生徒会ステージの際に、雪守が九条様の執事服のジャケットを羽織ったまま現れた時、それを見た男達の落胆は、そりゃあもう凄まじかったことは記憶に新しい。


「はぁ……」


 そこまで思い出し、手元に残る燃えカスとなった写真集の残骸をぐしゃりと握って、オレは溜息をついた。



 番外 鵺と生徒会とメイドのあの娘・了