「今日は私、生徒会に行くの遅れるから、先に始めといてねー!」
尻尾でも振り出さんばかりにご機嫌な雪守は、そう言って放課後になった途端に、何やら荷物を抱えてどこかへと走り去る。
「なんだぁ?」
「不知火さんが演劇部に入ったから、激励がてら差し入れを持っていくんだってさ」
「へぇ」
雪守が走って行った方向を見やりながら、水輝が言う。
不知火と言えば、この間の文化祭で看板を描いていたヤツだ。すごい才能が現れたと雪守が騒いでいたが、確かに迫力ある良い絵を描くなと感心したことも記憶に新しい。
女子からは何かと目の敵にされている雪守であるが、どうやら不知火とは随分と気が合ったようで、文化祭が終了した後も仲良くやっているみたいだった。
「さてと、じゃあ雪守ちゃんの言う通り、先に生徒会室に行こうか」
「あ、悪りぃ。オレちょっと用事あるから、それ終わってから行くわ」
「あ、そ。九条様はどうします?」
「ああ、俺も生徒会室に行こう」
オレが断ると、水輝は自席でカバンに教科書を仕舞っていた九条様に声を掛け、二人は生徒会室へと連れ立って行った。
それを姿が見えなくなるまで見送った後、オレはおもむろに振り返り、教室の隅に佇む一人の男子生徒へと近づく。すると男子生徒の方もオレに気づいて、何も言わずにスッと薄い冊子を差し出した。
「サンキュ」
それをしかと受け取ったオレは、大事にカバンへと仕舞い、口笛を吹きながら生徒会室に向かったのであった。