私の記憶のはじまりは、いつもこの言葉から始まる。
『まふゆ、いいこと? あんたが雪女の半妖だってことも、妖力を使えるってことも、ぜ~ったいに誰にも言っちゃダメよ』
それは幼い頃、お母さんに何度も何度も耳にタコができるほどに言い聞かされた言葉。
幼い私にはなんで言っちゃダメなのか分からなくて。
でも普段ちゃらんぽらんなお母さんがいつになく真剣な顔で言うものだから、16歳になる今この時まで、私はちゃんとその言いつけを守ってきたんだ。
――そう、今この時までは……。
「今のって妖力だよね? もしかして雪守さんって……妖怪?」
勢いよく仰向けに倒された私の背中を、真っ白なシーツが優しく受け止める。
わあ、初めて使ったけど保健室のベッドって、案外寝心地いいんだぁ。と、どうでもいいことが勝手に頭に浮かぶのは、同じクラスの男子に押し倒され、互いの鼻先が触れそうなくらいどアップで見つめ合っている現実を直視したくないからである。
「さぁ、ちゃんと質問に答えて。早く答えないと、……力づくで言わすよ?」
なにそれ怖い。
強大な炎を全身にまとったような強烈な妖力を放つ、目の前の存在に震えが止まらない。九条くんの恐ろしく整ったお顔で睨まれると、ものすごい威圧感を感じて、まるで体が溶けていくような錯覚に陥る。
早く逃げろ逃げろと、私の頭の中の警報がガンガンと鳴り響く。しかし体は上から九条くんに伸しかかられており、両手首はがっちりと掴まれていて、ピクリとも動かせない。
……どうして。
「~~~~っ!!」
どうしてこうなった……っ!!?