正直言うと、本当にお願いしてしまいたい。

もうひとりで歩くの、無理そうだもん。


「……あの、お願いします……」

「りょーかい。家は? 近いの?」


……家……。

近いけど、知らない男の人に送ってもらうとか、絶対によくないよね。

でも、無理なものは無理。


「じゅ、10分くらい」

「よし、じゃ、はい」


ーーはい?

お兄さんは、私に背を向けてしゃがんでいる。


「はい、乗りなよ? おぶってあげる」

「え、えぇ、いや、いやいや、そんな……っ」


おんぶは、さすがに。

さすがに恥ずかしすぎるって!


「いやいや、じゃなくて。そんなふらふらのまま歩いてたら何分かかるかわかんねーって。おとなしく乗りなよ」


……まぁ、確かに。

この足取りじゃ、家にたどり着けるかもわからない。

お兄さんの圧にも負けて、おとなしく甘えることにした。


「ご、ごめんなさい、ほんとに……」

「いーよいーよ。全っ然、楽勝」

「アパート、あっちです……」


酔いと恥ずかしさで顔が熱い。

それにしてもこのお兄さん、何者なんだろ。

優しいけどなぁ……。

男は狼とかって、言うしなぁ……。

危ないってわかっていながらも、私はお兄さんの背に身を委ねてーーあろうことか、寝てしまった。

規則的な揺れと夜風が、ちょうど心地よかったんだ。


……ーーそしてそれが、いや、もしかしたら最初から、ぜんぶ間違いだったのかもしれない。