陸くんは、迫る羽鳥くんのことをひょいっと軽やかにかわした。
それから羽鳥くんの後頭部を、どういうわけだか持っていたフライパンで叩く。
体勢を崩した羽鳥くんの背に蹴りを入れてから、陸くんは玄関の中に入り、ドアを閉めた。
何が起こっているのかを目で追うのに必死で、頭の中が追いつかない。
けれど今、陸くんに抱きしめられているのは確かだ。
「ただいま、咲ちゃん。……ごめんね」
「ーーお、おかえり……っ」
溢れる涙を、抑えられない。
聞きたいことはたくさんあるのに、嗚咽に変わって言葉にならない。
「……咲ちゃん、俺さーー」
陸くんが話し始めようとするが、玄関のドアが、外からバンバンと何度も強く叩かれている。
ドアノブもガチャガチャと音を立ていて、話をできる状況じゃない。
……というか、普通に怖い。
陸くんは口をつぐんでドアを見てから、部屋の奥に私を押し込んだ。
「ちょっと、待っててね?」
そう言って陸くんは、私が制止する暇もなく玄関の外に出ていってしまった。
私をひとり部屋に残して閉まったドアの向こうから、羽鳥くんの怒号が聞こえる。
それから、ドン、ドン、と、壁やドアにぶつかるような音。
私は少しの間、呆然と立ち尽くしてそれを聞いていたが、はっと気づいた。
ーー警察、呼ぼう。
私がスマホを手にしたのと同時に、玄関のドアが開いた。



