クズ吸血鬼を拾ったら




もしかして、本当にいなくなっちゃったの?

……本当に、って、なんだ。

これでよかったし、これを望んだのは私だ。

私はまたいつもの生活に戻る、それだけだ。

ぜんぶ、元通りになるだけ。

大学へ行く支度をしながら、心のもやもやには蓋をした。





外は、雨が降っていた。

……なんとなく、今の気分にぴったりだな、なんて思う。


アパートを出て、傘を差して、少し歩いた辺りだった。

電柱のかげに、男の人が立っているのが目についた。

人気のない昼間の住宅街で、何をしているのだろう。

……誰かのこと、待ってるのかな?

傘に隠れて顔も見えないその人の前を、何の気なしに通り過ぎようとする。

ーーそのとき、腕を掴まれた。


「ーーえ、」

「一緒に来て」


傘の下から覗いたその人は、縁の太いメガネとマスクをつけ、それに帽子も被っている。

まるで意図的に顔を隠しているように思えた。

マスクのせいでこもった声は、覚えがない。


「は、離してください!」

「いいから、一緒に来いよ!」


焦った様子の男の人の力は強くて、私の抵抗なんか意味をなさない。


ーー怖い、どうしよう。

助けを呼ぶにも、他に人影もないし、私の声は雨音でかき消されてしまう。


「やだ、やめてっーー」


私が傘を落として、両手で男の人を振りほどこうとしたとき。

誰かが私の傘を拾って、後ろから私の頭上にかざしてくれた。


「……俺の咲ちゃんになんか用?」