もしかして、本当にいなくなっちゃったの?
……本当に、って、なんだ。
これでよかったし、これを望んだのは私だ。
私はまたいつもの生活に戻る、それだけだ。
ぜんぶ、元通りになるだけ。
大学へ行く支度をしながら、心のもやもやには蓋をした。
◇
外は、雨が降っていた。
……なんとなく、今の気分にぴったりだな、なんて思う。
アパートを出て、傘を差して、少し歩いた辺りだった。
電柱のかげに、男の人が立っているのが目についた。
人気のない昼間の住宅街で、何をしているのだろう。
……誰かのこと、待ってるのかな?
傘に隠れて顔も見えないその人の前を、何の気なしに通り過ぎようとする。
ーーそのとき、腕を掴まれた。
「ーーえ、」
「一緒に来て」
傘の下から覗いたその人は、縁の太いメガネとマスクをつけ、それに帽子も被っている。
まるで意図的に顔を隠しているように思えた。
マスクのせいでこもった声は、覚えがない。
「は、離してください!」
「いいから、一緒に来いよ!」
焦った様子の男の人の力は強くて、私の抵抗なんか意味をなさない。
ーー怖い、どうしよう。
助けを呼ぶにも、他に人影もないし、私の声は雨音でかき消されてしまう。
「やだ、やめてっーー」
私が傘を落として、両手で男の人を振りほどこうとしたとき。
誰かが私の傘を拾って、後ろから私の頭上にかざしてくれた。
「……俺の咲ちゃんになんか用?」



