「あ、ごめん……! あのさ、連絡先だけでも交換しない?」
「あー、じゃあ……」
それくらいなら、むしろしたいかも。
それだけして早く帰らせてもらおう……。
そう思って、カバンを漁るもーーない。
「あ、あれ……? スマホ……」
「はい、忘れ物」
背後から声と共に差し出されたのは、私のスマホ。
振り返ると、そこに陸さんが立っていた。
「……えっ!? なんでいるの!?」
陸さんは、自分の被っていた帽子を私に無理やり被せてきた。
……てかこの帽子、私のだし。
「スマホ、使うかなーと思って」
「いや、そうじゃなくて! なんで大学にーー」
「なんとなく?」
……話にならない。まともに相手しちゃダメだ。
ふいに羽鳥くんの目の前だったことを思い出した。
羽鳥くんは、呆然と陸さんのことを見ている。
「あっ、こ、この人はねーー」
「あ、咲さんの知り合い? はじめまして」
「どーも。あんた、咲ちゃん狙ってるでしょ? ……ダメだよ、俺のだから」
陸さんに肩を掴まれて引き寄せられた。
「ちょっと……!」
俺のってなに!?
あらぬ誤解を生むから適当言うのはやめてほしい。
「……あー、彼氏さん、いたんだ? ごめんね、なんか」
羽鳥くんは、気まずそうにこの場を去ってしまった。
「か、勝手なこと言わないでよ!」
「いやいや、本当のことだから」
いつから私が陸さんのものになったのだろうか。
……付き合ってられない。
私は陸さんを無視して、足早に帰宅することにした。



