「ーーっ、はぁ、はぁ……いっ、息、できないよ」
「はは、かわいーね。鼻使えよ」
……言われてみればたしかにーーそう、なのか?
そんなこと言われたって、初めてなんだから仕方ない。
……初めて。そう、初めてだったのに。
「……さ、最低だ……」
好きでもないどころか、よく知りもしない、こんな行きずりの相手と、ファーストキスをしてしまった。
「え、俺?」
最低なのは陸さんというか、こんな事態を引き起こした自分というか、こんな環境とにかくすべてというか。
「ーー全部! ……って、あぁー!」
「それ、やめてくんない? うるせーから。今度はなに?」
「だっ、大学、行かなきゃ!」
ーーそうだ、今日の6限は絶対落とせないんだった。
今から急げば、ギリギリ間に合うはず。
私は飛び起きて、本当に最低限の身仕度をした。
「ーーで、出てってね!? 私、もう行くから!」
返事はせずに微笑む陸さんが、おとなしく出ていくとは到底思えない。
けどもう構ってる時間はない。
玄関まで行って、靴がないことを思い出した。
「ねえ! 靴、どこ!?」
「いや、俺じゃないし。咲ちゃんが昨日自分で投げてたよ。外に」
ドアを開けると、本当に外に靴が散乱していた。
昨日の自分、なにやってんの!?
酔っぱらいって本当にたちが悪い。
私は慌てて靴を履いて、アパートを後にした。
背後に、絶対に出ていく気がない陸さんの、いってらっしゃいを聞きながら。



