「これから向かうんですね」

「そうだ。その前に言っておきたいことがある」

 エレオノールの視線がさまよったのもかまわず、ジークハルトは忙しなく言った。

「話さなければならないことがあるんだ。帰ったら必ず時間を取る。待っていてくれ」

「……今度はどうか無事に帰ってきてくださいね」

「ああ」

 ほっとしたように微笑すると、ジークハルトは背を向けて颯爽とその場を去った。

 後ろ姿を見送りながら、エレオノールは寂しそうに目を伏せる。

(どうか、ご無事で)

 伝えた言葉と同じ願いを心の中で言い、両手をそっと合わせて祈る。