「まだ話したいことがある。俺は――」

「お願いです。ひとりにしてください……」

 すっかり熱が移った大理石の噴水から離れ、すがるような目で見つめてくるジークハルトの視線を受け流す。

「エル、頼む。もう少し」

「……ごめんなさい」

 これ以上、ここにいたらまたジークハルトの腕に飛び込んでしまいそうだった。

 今ならまだ、この恋心をなかったことにして元の生活に戻れる。

(帰ったらお城を出よう。リュースとふたりきりで生きられるようにしないと、私……)

 エレオノールはジークハルトを残し、庭の奥へと逃げていく。

(ひとりになる準備が本当に必要なのは、私のほうだった)