「いらっしゃいませ」

 ドアを開けた途端、彼が私に気づいて颯爽と歩み寄ってくる。
 長い睫毛に縁どられたくっきりとした瞳、凛々しい眉、スッと高い鼻梁と口角が上がった艶のある唇、どのパーツもすべて整っていて美しい。

「コート、お預かりします」
「あ、はい。ありがとうございます」

 着ていたスプリングコートを脱いで渡すと、快永さんは綺麗な笑みを返してくれた。
 高身長でスラリと均整のとれた美しい体躯と、ワックスで遊びをつけたダークブラウンの髪が彼のカッコよさを引き立てている。
 今日の服装は濃青のシャツに黒のパンツを合わせていて、スタイルがいいとなにを着ても似合うなと見惚れてしまった。

 店内は全体的にダークトーンでまとめられていて、十六座席ある広い空間は落ち着いたラグジュアリーな雰囲気を醸し出している。
 黒の丸い美容椅子や、ミラーの後ろからあふれるやわらかい照明の光が上品で、オシャレな快永さんのイメージにピッタリ。
 私にとってここはまさに、王子様がいる夢の国だ。

 今日はまた一段と来店客で混みあっていた。
 サンドリヨンは快永さん自身が立ちあげたサロンだが、急激に拡大していて、現在は全部で三十店舗ほど展開している。
 中でもこの本店はカリスマ美容師である彼自身が施術をおこなっているから、かなりの人気店だ。
 経営者としての仕事もあるはずなのに疲れた顔ひとつ見せない快永さんはカリスマどころか神様みたいな人で、私は本気で尊敬している。

「こちらにどうぞ」

 促されて美容椅子に腰を掛けると、くるりと右へ九十度回転した。
 目の前にはピカピカに磨かれた大きな鏡。その中には緊張で笑顔を引きつらせた私と、後ろにはぞくりとするほど美しい容姿をした彼が写っている。