「す、すみません。あ、ありがとう、ございます」
「いつもお疲れさん」
先輩のことが好きだと自覚したのはそのときだった。
先輩に恋をした気持ちは嘘じゃなかった。ズドンと穴に落ちるような勢いで好きになった。
でもいまは、ゆらゆらと佐藤くんがわたしのこころを揺らしてくる。はやく穴に落ちろとせっついてくる。
いままでのわたしは自然に恋に落ちることしか知らなかった。こんなふうに恋を強いられるのが初めてで、踏み出せない。怖い。
(わたしはわたしの気持ちがわからない。こんな状態じゃあ仮につき合ったとしても、きっと佐藤くんの気持ちに応えられずに、あっさりと終わってしまう)
失恋は人を臆病にさせると知ったから、佐藤くんの押しの強さがうらやましい。
(もしもわたしが佐藤くんくらい先輩に思いを伝えていたらなにか変わっていたのかな)
そんなありもしないもしもを考えて夜がふけていった。


