シュガーコート



 唇同士が軽く触れるキス。

 それに気づいた直後からもうなにも考えられなくなって、全身がふわふわ浮いているような感覚がおそってくる。

 いつの間にか不安も悩みもすべて消えていた。

「ごめん。嫌だった?」

 すぐに離れていく謙信にわたしはハッとして慌てて追いすがる。

「い、嫌じゃない!」

 反射的にそう返すけれど、猛烈に恥ずかしくなってきて、熱い顔を隠そうと謙信の肩に頭を押しつけた。

 謙信はギュッとわたしの背中に腕を回して言う。

「変わらない。ずっと好き。手を繋ぎたいのもハグしたいのも、――キスしたいのも千花だけ」

「ほんとう?」

「約束する。千花は?」

「わたしも。謙信だけ。ずっと、好きだよ」

 さっきまでこの場所で時間が止まればいいと思っていたけれど、やっぱりそれはやめた。

 わたしたちの気持ちは、卒業で離れてしまうようなものじゃない。

 これからも謙信と一緒にいろいろなことをしたい。

 手を繋いで一緒に知らないところに行きたい。

 それでもどうしても不安になってしまうときは、またキスをしよう。今度はきっとわたしから。

 謙信がわたしの手を引く。ローズトンネルの出口には太陽のひかりがさんさんと降り注いでいた。





(了)