シュガーコート



 普段柔らかい視線が、ピントを合わせたように一点にしぼられる。その様子を見て、わたしは謙信のこの真剣な表情に惚れたのだと改めて実感させられた。

(華道に真剣になったのも、少し寂しいけど応援したい。あの日、温室で自分をからっぽだって嘆いていた謙信が自分で選んだことだから)

 写真を撮ったりメモをしたりとバラに夢中になる謙信の邪魔をしたくなくて、わたしはふらりと近くの人だかりを覗く。

「わあ、」

 来園者が集まっていたのは大きなローズトンネルだった。満開のバラが上下左右いっぱいに編み込まれた、まるで絵画の一部が具現化したようなところだ。

 人々は入り口で写真撮影をしてから、吸い込まれるようにトンネルの中に消えていく。

(すごい! これは謙信が喜ぶよね)

 跳ねるように謙信を呼びに向かう途中でふとわたしの足は止まった。

 謙信が女の子の二人組に声をかけられていたからだ。

 心臓がドキンと鳴り、わたしは声をかけるのをためらう。つき合って一年になるのに、こういうときどうすればいいのかいまだに分からない。

 そのまま見守っていると、謙信はにこやかに女の子たちからスマホを受け取って、二人組の写真を撮ってあげていた。