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『いまはちょうどバラの季節なんだ。きっときれいだよ』
目を閉じて愛おしむような声色が耳に残った。
電話越しの謙信のそんな言葉でデートの行き先が決まったことを思い出す。
ぐずついていた天気もわたしの念が通じたのかパッと晴れた。水たまりの残る歩道を新しい靴で跳ねるように歩くと、初夏の青葉がどこからか香る。
久しぶりのデート当日。わたしは分かりやすく舞いあがっていた。
(亜矢と双葉は似合うって言ってくれたけど……変じゃないかな? 着慣れなくてムズムズする)
ワンピースの裾を気にしながら待ち合わせ場所の駅へと急ぐ。髪をまとめたりリップを塗ったりと準備に時間をかけすぎてしまって、危うく遅刻しそうだ。
駅舎が見えてくると、看板の前にはすでによく知った顔があった。


