○都内の街(夜)
 村井綾乃(むらい あやの)、両親と共に歩道を歩く。歩道には銀杏並木が規則正しく植えられている。
 
綾乃の母「おなかすいたわね、どっか食べてからホテル行きましょうか」
綾乃の父「そうしよう。あそこのカフェは?」
綾乃の母「ええ、そこにしましょう。綾乃はどうする?」
綾乃M「ベリーズバックス日本にもあるんだ。じゃあそこでいっか」
綾乃「そこでいいよ。サンドイッチあるかなあ」
綾乃の母「あるでしょ。チェーン店ならメニューも大体同じでしょうし」

 綾乃と両親、左前方にあるカフェの扉を開いて中に入る。

女性店員A「いらっしゃいませ」

 店内は照明が明るく照らしている。人はまばら。綾乃達はカウンターでサンドイッチとキッシュ、コーヒーなどを注文する。
 女性店員A、かしこまりました。と答え会計をする。

女性店員A「出来上がりましたらお席にお持ちいたします」

 女性店員A、レシート風の席番号の書かれた札を綾乃の母に渡す。

綾乃の母「じゃあ座って待っておきましょう」

 綾乃達3人、窓際のテーブル席に移動する。綾乃の両親が上座、綾乃が下座に座る。

綾乃の父「ふいーーっ。たばこ吸いたいなあ」
綾乃の母「ホテル着いたら吸いましょう。外で吸うのは冷えるわよ?」
綾乃の父「そうだなあ。待っていよう」
綾乃M「それにしても、日本は久しぶりだなあ……」

 綾乃、窓から街並みを懐かしそうに眺める。

綾乃M「私は小学校1年の時にアメリカ・ニューヨークに父の転勤により引っ越した。日本に戻ってくるのは久しぶりだ。明後日からは日本の高校に編入するのも決まっている。どんな学校なのか楽しみだ」
女性店員A「お待たせしました」

 女性店員A、緑色のトレイごと商品を机に置く。

女性店員A「ではどうぞごゆっくり」
綾乃「ありがとうございます」

 女性店員A、にこやかに笑ってその場を後にする。綾乃の両親、コーヒーを1口含む。

綾乃の母「これ美味しいわ。ニューヨークのやつと同じじゃない」
綾乃の父「確かに」
綾乃M「言われてみれば同じかも。それでいて美味しい」
綾乃の母「サンドイッチも美味しいわ。チキンが柔らかくて食べやすい!」
綾乃M「そういやお母さんは私と同じ照り焼きチキンのサンドイッチ頼んだんだっけ」

 綾乃、テーブルに置かれたキッシュとサンドイッチを眺める。

綾乃M「あれ、なんかお腹が……」

 綾乃、胃の辺りを手でぐっと抑える。

綾乃の母「どうしたの綾乃?」
綾乃「なんか急にお腹が痛くなってきたかも……胃の辺り」
綾乃の母「あら、すきっ腹にコーヒー飲んだからかしら。無理せず食べられる分だけ食べなさい」
綾乃「うん……」

 綾乃、キッシュの乗ったお皿を自分の前へと移動し、プラスチックの白いフォークでちまちまと食べる。

綾乃M「キッシュは美味しいけど胃がキリキリする……」
綾乃の母「無理はしないで良いから」
綾乃「うん……」

綾乃、キッシュを半分食べた所でフォークを置く。

綾乃「ごちそうさま」
綾乃の母「これくらいならいいでしょ。残りは私が食べようかしらね。ホテルに入ったらルームサービスでおかゆかうどんでも食べなさい」
綾乃「うん……」

 綾乃一家、トレイを返却台に置きごみを捨ててから退店する。街を歩くと左前方に壁にもたれてうずくまる男性(都 怜王)のコマ。

綾乃M「なんだろう? 若い人っぽいけど」

 綾乃、男性(怜王)に声をかける。

綾乃「すみません、どうしましたか?」
怜王「お、おなかがすいて……」
綾乃「じゃあ、このサンドイッチ食べます? あのカフェでさっき買ったものです」
怜王「いいんですか?」
綾乃「どうぞ、私お腹痛くなっちゃって食べられないので」

 怜王、不思議そうに綾乃を見上げる。綾乃、サンドイッチを怜王に片手で手渡す。

怜王「ありがとうございます。いただきます」

 怜王、おそるおそるサンドイッチを受け取る。

綾乃「じゃあ、私達はこれで。お礼はいりませんのでどうぞがっつり食べちゃってください」

 綾乃、ぺこりと怜王に頭を下げる。綾乃一家、その場から立ち去る。綾乃一家の後ろ姿のコマ。

怜王「……」

 怜王、自分の足元に落ちている名刺を拾う。名刺のドアップのコマ。

怜王「村井綾乃、か……今度うちの学校に来るんだ」

 怜王、サンドイッチをビニール袋から取り出し、かぶりつきながら名刺を見つめる。

怜王「プリンセス候補、決まったな」

 怜王、意味深な笑みを浮かべる。