2学期が始まり、いよいよ文化祭に向けた準備を始める時期が来た。






11月に文化祭。12月に競技大会がある。

生徒会も部活も忙しい学期だ。










放課後の生徒会室。

今日も変わらず、誰もいない。









「さーて…」




過去の生徒会メンバーが残した実務マニュアルを取り出す。


生徒会が何をしなければならないのか、後の代の為に受け継いで残している物だ。








そのマニュアルには当時の写真なんかも貼ってあったりして、思わず頬が緩む。






…凄く、楽しそう。








去年のメンバー9人が文化祭の時に撮ったと思われる集合写真も貼ってあった。



その中には、現生徒会長の梁瀬先輩も楽しそうに写っている。







…何が原因で、今の梁瀬先輩をあんな風にしているのか。






どれだけ考えても、私にはさっぱり分からない。

















「…渡里」


「…え?」








…全然気が付かなかった…。







生徒会室の扉のところで、長谷田先生が腕を組んで立っている。






「……お前、何で泣いてんの?」




え?

泣いてないし…そう思いながら顔に手をやると、指先が濡れた。






何で私、泣いている?









長谷田先生は小さく息を吐きながら部屋に入ってきた。



そして、私の向かいの椅子に座る。






「…何ですか、先生」

「何ですかじゃねぇよ。生徒会担当だろ、俺」

「この前、仕事放棄とも取れる発言していたではありませんか。気が散るので出て下さい」

「だからお前さぁ……」





先生はポケットからティッシュを取り出し、私の目の前に置いた。





「お前、強がるのも良いけど。まず自分の顔、どうにかしろ」





…一瞬、最大限の侮辱かと思った。





けれど多分違う。

この止まらない涙でぐちゃぐちゃになっている顔のことを言っているのだろう。





「………」




無言でティッシュを取り、顔を拭く。


先生もその様子を無言で見ていた。








…空気が…重い。






先生、本当に何しに来たのだろう。












「…渡里」
「…先生」



「あっ…」






お互いがお互いを呼んだ。








…気まずい…。








「せ、先生からどうぞ。何ですか」

「あぁ…いや……向日葵。立派だな」

「……あ……はい」









また静寂が訪れた。







立派って。
他人事過ぎて呆れる。




生徒会の向日葵なのに。








「渡里は何だ、何を言おうとした?」







……気が散るから出て行けって、もう一度言おうとした。









だけどそんなこと。

このタイミングではもう言えない。







「………何を言おうとしたか、忘れました」

「そうか…」






再び訪れる静寂。






私は先生の存在を無視して、決めなければならないことのリストを作り始めた。





その間、先生は実務マニュアルを眺めていた。