四季くんの溺愛がいくらなんでも甘すぎる!

「そのときのことは皐月に聞いた?」

「ううん。四季くんが保健室にいたのは貧血起こしたからだっけ…みたいな、ちょっと曖昧な感じだった」

「はは…そっか。本当はね、コレ」

四季くんが自分の腕を触る。
さっき見た、薄い灰色の…ためらい傷…。

「自分で切ったんだ。家庭科の調理実習のときに」

「そうだったの…」

「ほんと迷惑な話だよな。こんな状態のときにたまたま調理実習なんて当たってるしさ、俺の中には死にたい死にたいって感情しかなくて、自分の体なのに、他人に操作されてるみたいに、スッて…」

「もういい…もういいよ四季くん…」

「そのくせ深くは切れなくて…パタパタってエプロンに血が流れてさ…床に血が落ちたのを見て、そばにいた女子が悲鳴をあげて…皐月がすっ飛んできて、保健室に引っ張っていかれたんだ」

「誰も気づいてなかったの?四季くんの行動に…」

「グループの奴らはフライパンの火を見てたり、食材を取りに行ったりしてて、誰も見てなかった。後になってから、けっこうおっちょこちょいなんだね、って笑われたよ」

「皐月くんは…?」

「保健室に連れていかれて、そのときは先生も居たんだ。処置するから戻っていいって言われて、皐月は家庭科室に戻っていった。それからもあいつは何も言わなかったけど、気づいてたと思う。触れちゃいけないことみたいに、地雷みたいに、皐月も海斗もことりさんのことは一切話題に出さなくなった。っていうか、保健室から戻った俺が彼女できた、なんて言って、皐月は目が飛び出そうなくらい驚いてた」

そのときの光景を思い出したら、笑い事じゃないんだけど、笑ってしまう。

皐月くん、きっと感情が追いつかなかっただろうな。