このままドアを開けなくてもいいのかもしれない。

でも私はリビングからけっこう大きい声を出してるし、
足音だってひそめてない。

居留守はたぶん、使えない。

チェーンを掛けたまま、
そっとドアを開ける。

「みのりちゃん…なんでうちに…」

「こんにちは、三神さん」

「なんの用?わざわざうちまで来なくても連絡先くらい夕凪に聞いてくれてよかったのに」

「ここ、開けてくんない?」

みのりちゃんの指がスッと伸びてきて、
チェーンにかけられる。

ゾッとした。
完全にどうかしちゃったひとに見えた。

「ムリだよ…みのりちゃん、怖いもん」

「失礼だなぁ。怖いのは三神さんのほうじゃない」

「私が…?」

「あーんなに素敵な彼氏がいるのに、浮気する女のほうが怖いわよ」

「は………浮気?」

「ね?こんなとこでするような話じゃないでしょ?」

「………三歩…ううん、五歩下がって」

「なんでー?」

「いいから!」

みのりちゃんが、いーち、にー、って数えながら五歩下がった。

一回ドアを閉めてチェーンを外してから、
ゆっくりと外に出る。

家の中には入れちゃダメだって思った。
密室だと何かあったときに逃げられないから。

それくらい、今のみのりちゃんは不気味だった。