「……少し、時間をくれないか」

「はい。私、待ちます。……だから、真剣に考えてください、結婚のこと」

 元教え子と、俺が……結婚……。
 いやいや、元教え子と結婚なんて……。出来るわけ、ないだろう……。
 いつから手を出していたのかとか、色々あらぬ噂を立てられるのも、困るんだよ……。

「……分かった。考えるよ」

「ありがとう、先生。 返事はいつでもいいので、待ってます」

 矢薙は俺の頬にチュッとキスをすると、「先生、また連絡するね。またね」と俺の前から背を向けて歩き出す。

「おいおい……」

 一体、なんなんだ……。この状況は……。

「これって……」

 逆プロポーズ……ってことだよな。

「まさか、この俺が……」

 教え子からプロポーズされる日がくる、なんてな……。
 矢薙は分かっているのだろうか……。俺みたいな男と結婚した所で、矢薙が幸せになれるか分からないのに。

 そもそも、なんで俺なんだ……? 俺は矢薙より、十二個も年上のおじさんだぞ?
 こんなおじさんと結婚したいだなんて……。矢薙は本当に変わっている。
 でも確かに、矢薙はあの頃と比べたら変わっていた。見た目も大人っぽくなって、高校生だった頃の矢薙とは違う。
 本当に二十歳になったんだと、つくづく実感する。