「放課後デート」は、結局延期になった。

愁也に手を引かれ駆け足で仕事現場へ向かう。

「あーくそー、山ぴーのやつっ。今日は休みだって言ったのに!」
愁夜も友達と約束してたみたいで、悔しそうにしている。
きつくぎゅっと握られた手が熱く、痛い。

はぁ、ほんと。
人の気も知らないで。

そんな、またアホみたいなことを考えてしまう、自分が嫌いだ。


嘘だ。
嘘だ。

嘘だから。


そう、嘘だから。


自分を落ち着かせなきゃ。


あの日、あの出来事は、ただの嘘、だから。
ただの見たくない、悪夢だったのだから。
あの日から変わった。
変わった、はず。

階段の踊り場をひびく、叫び声と、とどめなく頬を伝う、燃えるように熱いのに、なお、ひんやりと冷たい涙。
目に飛び込んでくる、絶望した顔。

そう、あの日ではないのだから。
月日が流れたから。
変わったのだから。


恋焦がれる気持ちも、一つ一つの仕草に胸がキュッとするのも。
そう、もう消えてしまった、から。


なんて、否定する自分と。
ちがうと叫ぶ自分。

なんだか、心の中の天使と悪魔だ。

考えて、どんなベタなこと考えるんだと、また一人で苦笑い。

嘘なのだから。
否定でも、肯定でも。
することなんてない。


考えたって、無駄だ。