「ゆう」

…夢を見た。






「ゆう」


目の前のその人は愛おしいものを見つめるように私を遠くから見つめる。

でも私はその人が誰なのかわかんなくて。




その人は、ベッドみたいなものに横渡っている私に近寄る。


反射的にぎゅっと目を瞑ると、その人はそっと私の前髪の乱れを押しやる。

おでこに触れた、温かい感触。



びっくりして、目を開けようとするも開けられなかった。


そっと、優しい声でその人はつぶやいた。




「好きだ」



「好きだ、ゆう」



「愛してる」




どこか聞き覚えのある、大切な人の声。


そんな声で、好き、愛してる。

そうその人は言っていた。




「俺の、ものになってくれ」



苦しそうなその声が心配で、抱きしめたくなる、そんな衝動が体を走る。




「なぁ、嘘ってなんだ…?嘘って思いたくなるほど俺が嫌か…?」

違う。違うよ。そう言いたい。

誰なのかもわかんないのに、そう言いたい。




「ゆう、好き」



起きて、唇にキスをしたくなった。


私もだよ、そう、キスをしたくなった。






私を好きだという、あなたは、誰?








ぱちっ。

確かめたくて目を開けたら、その人の顔どころか、気配も、声も、どこにもなくなっていた。




「どこ、?」



気がつけば真っ暗闇の中で私はキョロキョロとしてしまう。


床には、水が張っていて、服も、足も、手も、濡れてしまって。凍えそうなほど寒かった。




突然、頭の中に直接音が響いた。




「ごめんな、ゆう」



あっ、あの人の声だ…!そう舞い上がってしまったのも、一瞬で。



もう何も、聞こえなくなってしまった。



目の前の真っ暗闇がぼやける。


あったかいものが頬を伝って、私は蹲って膝に顔を隠した。




好きだ、ゆう。


「私もだよ」


空っぽな空間の中で、私の誰かも分れない、好きな人への、告白の返事が、鳴り止むことなく響いた。