「秋道……さん」
痛みの中、絞り出すように呼べば
「あ、ごめんね。やりすぎちゃったね」
ほんの少しトーンが優しくなった秋道さんが、私の手を労わるように撫でてくる。
容赦のない力で爪を食い込ませられていた皮膚は鮮血を伝わせている。
「そろそろ綺麗になっただろうし。水で流そーか」
サラサラとした透き通った水道水が血の混じった泡を流していく。
秋道さんは私の手を見てほほえんだ。
「爪痕…くっきり残っちゃったね」
「……」
「綺麗」
「……」
「もしまた俺を怒らせるよーなことがあったら、今度はこの爪痕を茜ちゃんの全身に刻もうか」
そんな恐ろしいことをつぶやいた秋道さんは、真っ白なタオルを取り出した。
そして自身の作った甘い恋の歌を口ずさみながら、丁寧に丁寧に私の手を拭きはじめる。
大好きな歌声のはずなのに、今は恐怖以外なにも感じることができなかった。



