「ね、茜ちゃん」
「もう……キッチンでうろちょろしないでください。邪魔です、あぶない」
「おれのこと、諦めさせる気ある?」
さりげなくお腹に腕をまわされる。
「諦めさせる気しかありませんけど」
「いや、だって、矛盾しまくってるよ」
「はぁ?愛の言葉のひとつも吐いてないのに?」
「茜ちゃんにとって、おれは天敵みたいなもんでしょ?なのに、部屋にあがりこんで部屋掃除して、手料理を振舞おうとしてくれてる……なんというか、行動に愛しか感じないんデスケド……」
複雑そうな表情で私の首もとにおでこをうずめる秋道さん。
もじゃふわな髪がくすぐったい。
一方、私は
「…………ほんとじゃん」
ここでようやく、自分のしていることの異常さに気がついた。
たしかに、たしかにそうだよね?
めずらしくこのヤンデレ野郎の発言が正しい。
つきまとわれて脅されて、命まで奪おうとしてきた人間に対して、私はなにをしている……?
やばい、完全にいつものノリで動いてしまっていた。
「す、すみません、自覚しました。帰ります」
「えぇぇ、まってよやだよ、せっかくの茜ちゃん独り占めラブタイムなのに」
「気持ち悪いこと言わないでください」
エプロンをほどこうと紐に指をかければ
──ぐぅぅぅぅ
盛大な、秋道さんの腹の音。
「きゃー、恥ずかしい」
なんて両手で顔を隠してクネクネするきもいデカもじゃ。
頬がコケるまで食べることに関心を抱かない男の腹の虫が、私に助けを求めている。
「……」
ほんと、自分の性分がいやになる。
困っている人を見過ごせない性格。
「食べたら、帰りますからね」
しぶしぶ、フライパンを持ち直した。
秋道さんはこどものように顔をほころばせる。
「おれ、そーいうあったかいところ、茜ちゃんの中でいちばん好き」



