「実はそれね、トラウマかもしれない」
「トラウマ……?」
「うん。お父さんが急に姿を消して、茜ちゃんの心はひどく傷ついた。悪夢というのは心理的なものが強く紐付いてる。きっとその心の傷がトラウマとなって、夢に影響を及ぼしているんじゃないかな」
「そんな……」
「お父さんも心配していたよ。自分のせいで茜ちゃんがつらい思いをしているんじゃないかってね。その確認も頼まれたんだ」
「……」
「苦しかったね……茜ちゃん」
胸の奥に鈍痛が響く。
そっか……私、傷ついていたんだ。
お父さん
私を心配するなら、どうして
どうして帰ってきてくれないの……?
悲しみが広がる。
分からないことだらけだ。
親子なのに。
すると、アズマさんが私の手をそっと握った。
「抱きしめても、いいかな」
「え……?」
反応する間もなく、アズマさんの腕の中に閉じこめられてしまった。
甘い匂いが鼻をくすぐる。
あまりに突然のことに、私は何度も目をしばたかせた。
「え、あのっ……」
「ダメだね……茜ちゃんが悲しそうにしてると、僕まで悲しくなる」
「アズマさん……」
「お父さんの代わりになんてなれない。
けど、せめてこうさせて」
ゆっくりと背中をさすられる。
同情なんかじゃない。
心の底から私を思ってくれている仕草。
もう散々泣いたのにまだ涙が残っていたみたいだ。
アズマさんの体に手をまわし、すこしだけ甘えてしまった。
滲む涙がいつしか伝ってお父さんに届けばいいのに。
私はしばらくのあいだ、アズマさんの腕の中でじっとしていた。



