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(そして現在に至る……)

胡桃がパーティーへの出席を承諾した後、壱世とは密着取材にむけた打ち合わせをしっかりと行なった。

(取材できるのは良かったんだけど)

〝壱世の婚約者〟である胡桃の右手は、壱世の左腕に添えられていて、右斜め上を見れば彼の顔が間近にある。
身長百五十八センチの胡桃がヒールを履いても見上げる長身だ。

まわりの女性ゲストたちが壱世を見てざわついている声が聞こえてくる。

(イケメン市長って言われてるだけあって、さすがにきれいな顔してるなぁ。目力があるし、鼻筋が通ってるし。あ、それに声が低めでイケボかも。これは女性票がかなり入っただろうな)
などと考えていると、壱世と目が合った。

「急いで準備したわりに、なかなか似合ってるな」

美麗な笑顔で言われ、胡桃は思わずドキッとする。

「それで、私はなにをすれば?」
「べつに何もしなくていい、ただ俺の隣で適当に相槌を打っていてくれれば。市長が予定通り婚約者を連れてきた、それだけで波風が立たずにすむ。それが君の役目だ」

「簡単で安心しました。ところで」
「ん?」

「料理は自由に食べていいですか?」

胡桃は目を輝かせた。

「え?」

「だって、Berigaokaグランドホテルのパーティーなんて滅多に来れないんですよ。ここのレストランのランチビュッフェはいつも予約でいっぱいでディナーはちょっと手が出ないし、こんな食べ放題の機会なんて二度とないかも」

壱世は胡桃の熱弁に、一瞬ポカンとして「フッ」と吹き出した。

「市長の婚約者は食い意地が張ってる、なんて噂にならない程度にならご自由に。何か取ってこようか? 婚約者様に」
「じゃあ、お願いします」

胡桃は「やってしまった」と恥ずかしくなりつつも、料理には相変わらず目を輝かせている。

(変なことに巻き込まれた分、料理で取り返すことにしよ)