恋愛日和 〜市長と恋するベリが丘〜

「ん……っ」

キスが深くなり始め、熱が絡まる。

壱世に応えようとする胡桃の頭がぼんやりとしてきたところで〝偽物の婚約者〟という言葉が脳裏に過ぎりハッとする。

「あ、あのっ」
壱世の胸をグイッと押し退けた。

「あ……えっと、すみません」
鼓動の音が耳に響く。

「いや、こっちこそ調子に乗って悪かった」
壱世がどことなく残念そうな顔をするので、胡桃はキュンとしながら首を横に振る。

「あ、い、壱世さんは外国暮らしが長かったんですもんね。でも、なんていうか、すみません……」
胡桃の心臓は落ち着かない音を鳴らし続けている。

気まずくなって胡桃はしばらく無言で中庭や月を見ていた。
壱世はまたタバコに火をつけた。

「……明日の朝食、何でしょうね」
気まずい状況を打開しようと、胡桃が口を開く。

「さっきも言ったけど、考えると腹が減るんじゃないか?」
胡桃は「ははは」と心の込もらない笑みを浮かべた。

そして、気持ちと心臓を落ち着かせるように小さく深呼吸をした。

(〝特別な街〟かぁ……)

「……あの、壱世さん。来週の土曜はお時間ありますか?」
「え? ここに来る予定にしているが」
「十玖子さんに頼んで来週はお休みにしてもらうので、よかったら一緒におでかけしませんか?」
「おでかけ?」

胡桃の急な提案に、めずらしく壱世がキョトンとしている。