恋愛日和 〜市長と恋するベリが丘〜

はじめは適当に濁そうとしていた壱世が、自分に本音を見せてくれた。

「なぜかな」
壱世は考えるように、手に持っているタバコの箱をトントンと人差し指で弾いた。

「多分、君のポジティブな言葉が聞きたかったんだろうな。それに、なんとなくだけど胡桃には本音で話したい」
彼は庭の方を見てから、胡桃を見て言った。

「信頼されてるって思ってもいいですか?」
「信頼?」
胡桃は彼の目を見る。

「十玖子さんが『たまには信頼できる誰かに自分から相談なさい』って言ってたから。私がその、壱世さんの〝信頼できる誰か〟の一人だったら嬉しいなって思います」
言いながら頬が熱くなって、心臓の刻むリズムが速くなる。

壱世は胡桃を見つめてまたと笑うと、唇に触れるようなキスをした。

一瞬の沈黙の後、胡桃は戸惑った表情で壱世を見た。

「どうして……」
「かわいいなと思った」
彼の声が優しくて、心臓のリズムがさらに速くなる。

「か、かわいいって思ったら、ほっぺたつねるんじゃないんですか?」
甘い空気にどうしたら良いのかわからず、つい冗談めかして言ってしまう。

「毎回同じじゃつまらないだろ?」
壱世も冗談交じりに答える。

「それに、たまにはこれくらいしておかないと婚約者らしさが出ない。嫌ならまた引っ(ぱた)けばいい」

そう言って胡桃の左頬に優しく触れると、もう一度唇を重ねた。