恋愛日和 〜市長と恋するベリが丘〜

「たとえば……?」

「胡桃みたいに『栗須市長のおじいさま大好きでした』『おじいさまに感謝してます』って言う人に何度も会ってる。聞いてみると大事ではあるけど細々したようなことなんだよな。建物にスロープをつけてくれたとか、イベントを開催してくれたとか。もちろん大きな成果も上げている人ではあるけど」
(たしかに私のもそんな感じだなぁ)

「今までの人生がわりとトントン拍子で、起業した会社も結構上手くいってたし、市長になったら簡単にじいちゃんみたいな成果をあげられると思ってた。だけど現実は案外厳しいな」
壱世はまたため息をついた。

彼の言葉には鹿ノ川など、周りの改革反対派の存在のことも含まれているのだろうと胡桃は察する。

「だから君の話を聞いた時、なんとなく言いたくなかったんだ」
「もしかして……プレッシャーなんですか? おじいさまのことが」

胡桃の質問に、彼は少しだけ考えた。

「そうかもな」
壱世は空を見上げた。

「俺ってイケメンだから、女性票で当選したとか言われてるだろ?」
「またコメントに困ることを……」
呆れ顔の胡桃に壱世は「あはは」と笑う。

「だけど実際は、じいちゃん……栗須萬眞(かずま)を覚えていて、その孫に期待して投票してくれた人もかなりいると思うんだ。俺はあの人みたいになれるのかなって、じいちゃんの名前が出るたびに考える」

(おじいさんの話題が出たからタバコを吸ってたのかな。私からしたら十分すぎるほど完璧な人って感じなのに、壱世さんにも悩みとかあるんだ)

壱世の意外な一面を知り、胡桃の胸はときめきともまた違った感情で締めつけられた。