「あの、同じ部屋で寝るのはさすがにマズいんじゃ……」

「マズいって何が?」
壱世がニヤッとイタズラっぽく笑う。

「な、何って、それは」
「ん?」

腕を前で組んで、体を屈めて胡桃の赤くなった顔を覗きこむ。

「はっきり言ってくれないとわからないな」
「……またからかってますよね?」

胡桃は上目遣いで眉間にシワを寄せた。
その顔を見た壱世が満足げに「ははっ」と笑う。

「同じ部屋で寝たからって、べつに何もしない」
そう言って壱世はくっついて敷かれていた布団を離してくれた。

「ばあさんがやたらと疑ってるから、ここで断ると余計に嘘だって怪しまれる」
「ああ! そ、そうですよね」
「それとも」
彼がまた胡桃の顔を覗きこむ。

「何かあった方がいいか?」
壱世の言葉に胡桃は赤面する。

「またそういうこと言って! セクハラ市長! 殴りますよ!」

壱世はまた笑っている。

「まあ、ばあさんは何かあって欲しいみたいだけどな」
壱世がつぶやいた。
「え?」
「なんでもない」

会話もそこそこに、二人は眠りにつこうと布団に潜りこんだ。

「壱世さん、電気真っ暗派なんですね」
電気の消えた暗闇で胡桃が聞いた。
「ん? ああ」
「一緒です」
「へえ」

壱世はあまり興味が無さそうな返事をする。
胡桃自身もどうでもいい質問だと思っている。

「あ、あの!」
「ん?」
「明日の朝食、何でしょうね。洋風って」
「さあ? そんなこと考えてると、腹が減って寝れなくなるんじゃないのか? 余計なこと考えてないで寝ろよ」

(お腹は空かなくても、緊張して眠れないかもなんですけど……)
そう思いながら、胡桃は目を閉じた。