「あら、どうしたの?」
十玖子は不思議そうな顔をする。
「え、えっとこれは……」
胡桃の目の前には布団が二組並んで敷かれている。
「何かおかしいかしら?」
(そうだよね。婚約者が同じ部屋で寝るくらい、普通なんだよね。でも私と壱世さんは、婚約者どころか他人なんですけど)
「えーっと、おかしくはないかもしれないんですけど……」
(壱世さんだって嫌だろうし)
「結婚前ですし部屋は別——」
「何も問題ない。ありがとう」
胡桃の頭上から声がした。
振り返ると、同じく浴衣に着替えた壱世が立っていた。
「そうよね、夫婦になるんですものね」
十玖子はどこか含みのある笑みを浮かべる。
「ああ。胡桃と水入らずで過ごしたいから、十玖子さんも早く部屋に戻ってもらえないか?」
彼は胡桃の肩をグイッと抱き寄せた。
(えっ)
そして作り笑いのようなどこかわざとらしい爽やかな笑顔を見せると、そのまま部屋に入り障子張りの引き戸を閉めた。
「あ、あの」
「ああ、悪い」
壱世は抱いていた胡桃の肩をパッと離した。
突然のことに胡桃の鼓動はいつもより速くなっている。
壱世の髪は風呂上がりで少しだけ湿り気を帯びている。
いつもは上げている前髪が下りていて雰囲気が違うのも速い鼓動の原因の一つだ。
それに密室に浴衣の男女が二人きり、目の前には布団という露骨なシチュエーションにどうしてもドキドキしてしまう。
十玖子は不思議そうな顔をする。
「え、えっとこれは……」
胡桃の目の前には布団が二組並んで敷かれている。
「何かおかしいかしら?」
(そうだよね。婚約者が同じ部屋で寝るくらい、普通なんだよね。でも私と壱世さんは、婚約者どころか他人なんですけど)
「えーっと、おかしくはないかもしれないんですけど……」
(壱世さんだって嫌だろうし)
「結婚前ですし部屋は別——」
「何も問題ない。ありがとう」
胡桃の頭上から声がした。
振り返ると、同じく浴衣に着替えた壱世が立っていた。
「そうよね、夫婦になるんですものね」
十玖子はどこか含みのある笑みを浮かべる。
「ああ。胡桃と水入らずで過ごしたいから、十玖子さんも早く部屋に戻ってもらえないか?」
彼は胡桃の肩をグイッと抱き寄せた。
(えっ)
そして作り笑いのようなどこかわざとらしい爽やかな笑顔を見せると、そのまま部屋に入り障子張りの引き戸を閉めた。
「あ、あの」
「ああ、悪い」
壱世は抱いていた胡桃の肩をパッと離した。
突然のことに胡桃の鼓動はいつもより速くなっている。
壱世の髪は風呂上がりで少しだけ湿り気を帯びている。
いつもは上げている前髪が下りていて雰囲気が違うのも速い鼓動の原因の一つだ。
それに密室に浴衣の男女が二人きり、目の前には布団という露骨なシチュエーションにどうしてもドキドキしてしまう。



