恋愛日和 〜市長と恋するベリが丘〜

「もうこんな時間だし、いいじゃない。お酒も飲んだことだし」
「いえ、でも何も準備してないですし……」

帰り支度を始めていた胡桃は、十玖子に泊まっていけば良いと引き留められていた。

「うちはよくお客様を泊めているから、着替えでも歯ブラシでも、色々と用意があるわ」
「で、でも」

「和子さんの朝食もおいしいわよ。明日は洋風の朝食にしてくれるみたい」
(う……)

胡桃が誘惑されるには十分過ぎるほど魅力的な響きだ。
彼女はもうすっかり胡桃の扱いを覚えてしまった。

「タクシーなんて呼ぶ気が無いんだよな、はじめから」
壱世が見透かしたように言った。

この家にタクシーを呼ぶ為には門の通行許可が必要で、その権限は住人である十玖子と柚木だけが持っている。

「この人は君を家に泊めたくて仕方ないんだよ。どういうつもりか知らないが」

壱世の言葉に、十玖子は胡桃を見て笑いかける。

「じゃ、じゃあ……お世話になります」