恋愛日和 〜市長と恋するベリが丘〜

「知り合ってからまだ日が浅いんだ。そんなに何でも話していない」
壱世がまた何でもないように嘘をつくので、胡桃は妙に感心してしまう。

「それに、ずっと気になっていたのだけれど」
しかし十玖子はまだ訝しんでいるようだ。

「あなた、胡桃さんに婚約指輪は贈っていないの?」

「えっ!?」

壱世ではなく胡桃が大きく動揺する。

「どうかしたのかしら?」
「え、い、いえ! なんでもないです」

(いくらなんでも偽物の婚約者に指輪は……)
胡桃は気まずくなって、どう切り抜けたら良いのか困り壱世の方を見る。

「ああ、そういえばそうだった。バタバタしていて後回しにしてたんだ」
平然とそう言った彼も胡桃の方を見た。

「胡桃って指輪のサイズ何号だっけ?」
「え!?」
壱世の質問にも、つい動揺してしまった。

(口裏を合わせるための質問なんだから、慌てるところじゃない)

「えっと、八号……です」
以前にベリビのウエディング特集の取材の一貫で薬指のサイズを測ったことがある。

「わかっているとは思うけれど、栗須家として恥ずかしくない指輪を用意なさいね」

十玖子と壱世の会話を聞きながら、胡桃は「彼はどこまで本気で言っているんだろう?」と疑問に思った。
(安い指輪でも買ってごまかすのかな? でも十玖子さんにはバレちゃいそうな気がするし)

そんなことを心配しながら、また会話する二人を見る。

(そういえば、一体いつまで婚約者のフリをしていていいんだろう。もう少し十玖子さんにはマナーを教えて欲しいし、それに……)

壱世とももう少しの間、こんな風に話せる関係でいたいと思ってしまう。