***

八月の半ばになったこの日も、胡桃は十玖子の礼儀作法指導を受け終えていつものようにお茶を飲みながら雑談をしていた。

「壱世さんのご両親はこちらに暮らしていらっしゃらないんですね」
胡桃が何気ない気持ちで質問すると十玖子は一瞬チラッと壱世の顔を見た。

「この子たちの両親はもう長いこと海外を拠点にしているのよ」
(ご両親はグローバルな感じなんだ。なんか、さすが)
お茶受けに出された水ようかんを食べながら壱世の両親を想像してみる。

「壱世も小学生の頃は海外に住んでいたのよ」
「え! そうだったんですか?」

胡桃が壱世の方を見ると、冷茶を飲みながら無言で頷いた。

「だけどこの子はおじいちゃん子で、おじいさまと暮らしたいと言って一人で帰って来てしまったの」
「俺の話はもういいだろ」
壱世は面倒そうに言う。

「おじいさまはどんな方なんですか?」
胡桃の質問に、十玖子はまた壱世の方をチラッと見てから答える。

「この子はおじいさまに憧れて、ベリが丘市長になったのよ」

「え? じゃあ、おじいさまも市長だったんですか?」
胡桃はとても驚いた顔をした。

「壱世あなた、婚約者に何も話していないのね」

(あ! マズい)

自分の反応のせいで十玖子が怪しんでいることに、胡桃はヒヤッとする。