恋愛日和 〜市長と恋するベリが丘〜

「すごいお家ですね」

車から降りた胡桃は、目の前に広がる日本庭園を見てから緊張気味に壱世を見上げる。

「否定はしないが、住んでいるのは普通……の人間だから、そんなに緊張しなくていい」
「なんか今、〝普通〟の言い方がおかしかったような? やっぱり何かあるんですか?」

「いや、そんなことないって。普通普通」
「なーんかあやしいです」

胡桃と壱世が玄関の前でそんなやりとりをしていると引き戸が開き、初老の女性が顔を出す。

「壱世坊っちゃん、おかえりなさいませ」
(坊っちゃん!?)

「あ、柚木(ゆのき)さん。ただいま」

彼女は自分の生まれる前から栗須家に住み込みで働いているお手伝いさんだ、と壱世が説明する。

柚木の案内で、胡桃は壱世とともに応接間へ通された。
床の間のある十畳ほどの和室には深い焦茶色の大きな座卓と紺色の座布団が用意されている。

(なんか……想像してたより大ごとかも)
壱世の隣に正座した胡桃は、独特の空気感と名前を知られているという状況に緊張の色を強める。

「大奥様がいらっしゃるまで、少々お待ちください」
そう言ってお茶を出すと、柚木は部屋を後にした。

「大奥様、とは?」
聞き慣れない響きにまた緊張する。

「俺の祖母。君を指名してきた張本人だ」

「壱世さんのおばあさま」
(……が、なぜ?)
胡桃にはやはり心当たりがない。

落ち着かない気持ちのまま、部屋の外に見える広々とした庭を眺めながらしばらく待っていると、部屋の入り口から老婦人が姿を現した。

「こんにちは。いらっしゃい」

「あ」