恋愛日和 〜市長と恋するベリが丘〜

「笑ってください。市長も高梨さんも昨日と同じ、難しい顔のままですよ」
胡桃は自分の口の両端に指を当てて、笑うように口角を上げて見せた。

「急に笑えといわれても。俺はともかく、高梨は難しいんじゃないか?」

高梨は困っているのか黙っている。

「おいしいもののことでも考えたらいいんじゃないですか? ハンバーグとかカレーとか」

胡桃が言うと、壱世がまた「プッ」と吹き出した。

「君は本当に食べることばかりだな。しかもハンバーグにカレーって、高梨を何歳だと思ってるんだ」
壱世が「あはは」と笑うと、高梨もつられて小さく笑った。

「ハンバーグとカレーは年齢関係ないですよー私も大好きだし」
胡桃は口を尖らせる。

「みんなもハンバーグとカレー、好きだよね?」

胡桃が園児たちに向かって話しかけると
「うん!」
「だいすき!」
「ぼくはぷりんがすきー!」
など、元気な声が返ってきた。

「さすがっスね、一気に空気が和んだ」
橘がファインダーを覗きながら胡桃に話しかけた。

「〝おいしいものは正義〟だからね」

胡桃は左手でピースを作ってみせた。