胡桃はベリビ編集部に配属されて四年目、編集者歴六年で編集もライティングも、ときには簡単な撮影なども担当している。
栗色のミディアムヘアに少し短めの前髪、やわらかい印象の眉という明るい雰囲気の二十八歳。
今日は取材が二件あったため、オフホワイトの柔らかな素材のブラウスにグレーのパンツの動きやすいファッションをしている。

生まれも育ちもベリが丘で、現在はベリが丘のサウスエリアで一人暮らし。
自分では〝生粋のベリが丘っ子〟だと思っている、ベリが丘大好き女子だ。

(編集長、まだ三十代なのに白髪が増えて大変そうだなぁ。ここ最近、立て続けにスポンサーが降りちゃってるもんね)

ベリビはベリが丘の街に根ざしたフリーマガジンで、隔週木曜刊行、ベリが丘の駅や主要な商業施設のラック、商店や飲食店などに並び、発行部数は二十万部を誇っている。
編集部員は胡桃を含めて六名。
ベリが丘市民なら、読んでいないまでも大半が存在を知っているこのベリビは、最近ちょっとした危機を迎えている。

フリーマガジンの収入源である広告を出稿してくれる店舗や会社が相次いで移転や店じまいをして、広告が減ってしまっているのだ。

ベリビ編集部は他のフリーマガジンや広告制作を請け負う編集プロダクション、株式会社マンデルパブリッシングの中にある。
そのため、ベリビ単体の広告収入が減ったからといってすぐに休刊や廃刊になることはないが、決して安心できる状況ではない。