「ところで」

壱世が胡桃の背後からスマホを取り上げる。

「なんでこんな写真見てるんだ」
画面には、壱世が鹿ノ川を殴った瞬間が映されている。

「橘くんがくれたんですよ。躍動感があってかっこいいからって」
「暴行の証拠写真なんて保存するなよ」
「あ!」
壱世は躊躇なく写真を消した。

逮捕された鹿ノ川は、様々な余罪を追及され結局壱世を訴えるどころでは無さそうだ。

胡桃が監禁されていた場所が烏辺グループ所有の建物だったため、烏辺グループの本社に家宅捜索が入り、烏辺会長も聴取を受けることとなった。
胡桃が録音していた飯桐や倉庫での鹿ノ川たちの会話は念のため警察に提出した。
櫻坂の不正な土地買収についても、そのうち捜査のメスが入りそうだ。


「まさかこんなタイミングで胡桃の両親と初対面になるとは思わなかった」
胡桃が事件に巻き込まれたことで、壱世は土曜のうちに胡桃の両親に顔を合わせることになった。

「ご両親にも言ったけど、結婚はしばらく先になると思う」
胡桃も壱世の言葉の意味は理解している。

副市長の穴を埋めること、鹿ノ川の汚職がどこまで広がっていたかを把握すること、そして何より、市議会への市民の信頼を取り戻すことに力を注がなければいけない。

「応援してます」